最高裁判所第三小法廷 昭和44年(あ)715号 決定 1969年7月08日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人本人の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
弁護人高木義明の上告趣意第一点は、憲法三一条違反をいうが、本件麻薬の所有者林時煒、同黄桂容の両名に対しては、同人ら自身に対する麻薬取締法違反被告事件の手続において本件麻薬の没収について告知、弁解、防禦の機会が与えられており、そして、記録上明らかな同被告事件および本件被告事件の各具体的事情に徴すれば、両名に対し、本件麻薬の没収について、重ねて本件被告事件の手続への参加の機会を与える必要があつたものとは認められないから、論旨は、前提を欠き、同第二点は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であつて、所論は、すべて刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)
弁護人高木義明の上告趣意
第一点 (憲法違反)
一、原判決は麻薬取締法第六八条本文により被告人に対し本件麻薬の没収を言い渡しているが、本件麻薬は、原判決も判示しているとおり、被告人において林時煒、黄桂容の両名から「預り所持していた」に過ぎないものであつて、被告人の所有にかかるものではなく、右林時煒、黄桂容の所有に属するものである。
このように第三者の所有物については、憲法第三一条に従い、当該第三者に聴問等の機会を与えなければ、他人(例えば本件被告人)に科すべき附加刑としても、これを没収し得ないものと解すべきであるから、本件麻薬を没収することは、憲法第三一条に違反して許されないと言わなければならない。しかして、この憲法違反は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄されるべきである。
第二点 (破棄事由の存在)
一、仮りに、右第一点に関する主張が認められないとしても、原判決には、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる以下記載のとおりの事由がある。(判決に影響を及ぼすべき法令の違反)
二、原判決は本件麻薬を麻薬取締法第六八条本文に基づいて没収しているが、同条本文は当該麻薬が被告人の所有にかかる場合にのみ適用され、本件の如く当該麻薬が第三者林時煒、黄桂容の所有に属する場合には、適用なきものと解すべきであるから、原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること明らかである。(三、以下省略)